★「3人で行こう!仕事も子どももあきらめない!」インタビューは、【3人の子どもを育てながら、独自のワーキングスタイルで好きな仕事をして輝いている女性たち】を紹介し、その生き方の秘訣を伺うコーナーです。さまざまな理由から、働きながら子供を産もうかどうか迷っている皆さんの、お役に立てれば幸いです。
■「自身の子育て・出産への疑問から、お産ライターへ」
 

河合蘭さん 出産専門ジャーナリスト

 
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■ 「自分が経験したお産と育児に疑問があり、それをバネに、自分の子育てをつかみたかったんです」
                            
『未妊−「産む」と決められない』。この本を読んだことがあるだろうか? 30才で子どものいない女性が50%を超えた現代だが、そのほとんどは、【「産む」と決められない】女性たちだという。少子化の本当の原因がいったい何なのか、「未妊」の彼女たちの声を取材して作られたのが、この本だ。「未妊」という言葉は、「まだ妊娠してはいないが、心の中で赤ちゃんがいるという状態」をあらわす造語だ。現代の女性は、出産を先延ばしにして赤ちゃんのことを考えている時間が長く、時間切れで子どもを持つことを諦めている人も多いという。
著者の河合蘭さん。出産情報サイト「REBORN」の代表もつとめるお産ライターの第一人者である。さぞや子ども好きな方であろうという印象を抱いていたが、子どもが産まれる前は、伝説のサブカルチャー紙「宝島」のカメラマンをしていたという、いたって現代的な女性だ。最初の子どもを妊娠した時も、「ちょうど犬でも飼おうかと思っていたからいいかな」とライトな気分だったと笑う。
そんな河合さんだが、いざ子育てを始めてみると「これはおかしい」と感じたという。
「子育てについては、何もかもが疑問だらけでしたね。子どもと1日マンションで2人きりの生活。密室育児で公園しか行く場所がなく、そこでの話題も夕飯の献立や夫の話ばかり。こんな子育てが日本全国で繰り広げられているなんて、ありえないと思いました」。


そんな閉塞感から抜け出すために、大学在学中にカメラマンの仕事で培った売り込み方法で、マタニティー誌にライターとして企画の売り込みをはじめ、子どもが1才のときに仕事を再開した。最初に実現した企画は、青森の産婆さんの取材だった。
ライターの仕事にしぼったのは、「とにかく見に行きたいこと、書きたいことがいっぱいあった」から。当時、自分が経験したお産と育児に疑問があり「それをバネに、自分の子育てをつかみたくて」という気持ちが根本にあった。
 ■「実績がなくても情熱があればチャンスはあるし、自分にしかできないことは必ず誰にでもあるんです」
私が驚いたのは、河合さんの行動力だ。カメラマンとしての実績があるとはいえ、ライターはまったくはじめての仕事。とまどいはなかったのだろうか。
「自信を持たなきゃと思うときは持つことです。人になんと言われようと私はライターだ、と思うこと。名刺に書いたら、もうその職業なんです(笑)。名刺を出せば、周りもそう思う。いつか自信がついてからと思うといつまでも表に出られないので、思い切って人前に出てチャンスをもぎとるんです。実績がなくても情熱があればチャンスはあるし、自分にしかできないことは必ず誰にでもあるんです」。
そんなポジティヴな河合さんだが、3人の子どもの子育てと、締め切りに追われがちなライターの仕事の両立はどのようにされているのだろうか?
「元々、母親が大学研究所の研究者で、フルタイムでバリバリと仕事をしてたため、色々な人に育てられてきた」という河合さん。
子どもの眼から見て母親の働き方がそんなにいいとは思わず、その結論が「フリーライターになり子育てと仕事を両立することだった」という。
「フリーであって、かつ子どもがテーマであれば、両立しやすいと考えたんです。2、3人目の出産はもう人体実験ですね(笑)。取材で知ったことを自分の子で確かめるんです」。
もともと、「のめり込みやすく限界まで仕事をしてしまうタイプ」という河合さん。
締め切りですごく忙しいときは、「お母さんは、この本を書き終わる迄いないと思って」と宣言するようにしている。子どもは、緊迫感が伝わり「はい。ママがんばって!」と答えて絵を書いておとなしくしているという。
そんな河合さんだが、子どもにサインが出たときは見逃さない。例えば、疲れて着のみ着のままでリビングで寝てしまう日が続いたり、朝スッキリと保育園に出かけられず体調が悪い様子だと、ちょっとやりすぎているなと危機感を感じるという。
そんなときは、ゆっくりお風呂に入ってたくさん絵本を読んで寝かしつけるなど、短時間だけ集中して相手をしてあげることを、こころがけてきた。
「3人子どもを育てていると、ちょっとの時間観察すると、子どもがどのくらい乾いているかがわかるんです」。
1人目のときはそこまでは観察できなかったというから、子育ての経験を積むにつれ、仕事も円滑にまわるようになったといえる。
また、河合さんは「どんなに忙しくても子どもを抱っこしていっぱいさわってほしい」とメッセージを送る。
「自分自身のためにもスキンシップが必要。理屈ではなく、子どもがなんでこんない可愛いんだろう、と思える瞬間があればいいんです」。「メリハリを大事にする」のが、河合さんの子育ての最大の秘けつだ。
未妊
■ 「「もっとリラックスしよう」「もっと簡単に考えよう」というメッセージを送ることで、若い女性がもっと楽に子どもを産むことを考えられる時代がきてほしい」
最後に、出産専門ジャーナリストの河合さんが、なぜここにきて「産む」ではなく、「産まない」をテーマにとりあげているのか伺った。
「現代の女性は、昔よりややこしいことになっていて、シンプルさがなくなっていると思うんです。赤ちゃんと触れあう実体験もなく、お産の怖い話ばかり聞かされ、不安材料が自分の中にたまっています。昔の人はもっと簡単に考えて子どもを産んでいたはず。生き物としての女性を考えた場合、現代は窒息しそうな状況です。
仕事もしたいし、遊びもしたい。それは、いざとなれば子どもがいてもできることなのに「無理だ」「大変だ」という想いばかりが先行して、とても苦しそうにみえます」。
頭でっかちの女性に対して「もっとリラックスしよう」「もっと簡単に考えよう」というメッセージを送ることで、若い女性がもっと楽に子どもを産むことを考えられる時代がくることが河合さんの願いだ。
河合さんのお話でいちばん私の心の残っているのは、「何かの専門家になれば、必ずお金はあとからついてくる」という言葉。「お医者さんが目の前に急病人がいれば助けるように、私はお産について知りたい人がいれば書く。それだけのことで、そのうち世間から役に立つ存在だと思われるようになれば、それが自分の職業を持つということだと思う」と力強く語る河合さん。
「未妊」に続き、今後は「2人目未妊」や「男性版未妊」にも取り組みたいし、産科医不足など社会全体の出産力低下にも迫りたいと意気込む。「やりたいことが尽きない」という河合さんの表情は、日々ライフワークに取り組んでいる喜びと誇りに満ち溢れていた。(取材 常山あかね)
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●●プロフィール河合蘭さん。
サブカルチャー誌のカメラマンを経て、子どもを出産後、お産専門のフリーライターに転身。出産情報サイト「REBORN」編集長。3児の母。
著書に、『未妊−「産む」と決められない』(NHK出版生活人新書)/『お産選びマニュアル−いま、赤ちゃんを産むなら』(農文協)がある。
河合 蘭オフィシャルサイト

■3人のお子さんがいてよかったことは?
3人いてすごくよかった。それぞれがいい味を出しているから。
1人目のときは、「こういう子に育てたい」という思いがあったが、3人目になると「子どもは持って生まれたものがあって、その子が伸びたいようにのばしてあげればいい」と思えてきた。いいところを探し、観察し、それを伸ばす。3人足すと、束になれば長所短所を補い合って、期待通りの子になる(笑)。1人の完璧な子を求めても無理なので心にもゆとりが生まれる。
子どもがいることで、基本的な欲望が満たされていると感じる。多少うまく行かないことがあっても、それで過剰に落ち込んでしまうことはない。子どもたちがいて家庭があることが支え。自分も我慢強くなった。
■家事・子育てと仕事の両立で意識していること
両立は本当に大変だと思う。限界を超えたので、気持ちが荒れたこともあった。そんな時、夫が「今がピークだ」と言ってくれたので救われた。「もうだめだ」と思うと、必ず時間が過ぎて子どもは大きくなりそれを越してくれる。辛い時は、キレる自分を許してもいい。介護は衰えていく人が相手だし終わりも見えないが、子育ては未来が明るいのでキレても大丈夫。
家事は、成長した子どもがかなり手伝ってくれるようになり、ファミリーサポートも利用している。いい方に出会えて、とても満足している。実の母が同居しているが、もともと大学で研究者だったので、「受験勉強だけしていなさい」と育てられた女の子の草分けで家事はきらい。夫は長時間勤務で頼れないが精神的な支えになってくれて、異業種ゆえのアイディアをもらうことも多い。
■これまで仕事をやってきて一番嬉しかったこと
仕事は日々面白くて仕方がない。会いたい人、読みたい本がたくさんあり、知りたいことが次々に溢れてくる。興味が尽きないということに尽きる。
「「未妊」を読み、迷っていたけど避妊を止めました」というような読者からの手紙をもらうときは一番嬉しい。自分の書いたものがどこかで誰かの人生に関るということは、私にとって最大のロマン。
プロの書評より、本当に赤ちゃんを抱いた人の感想をもらえることがいちばん嬉しい。
■ワーングマザーやこれからワーキングマザーを目指す方へのメッセージ
何かの専門家になれば、必ずお金はあとからついてくる。まずは、何かを極めてほしい。仕事をしたときに、大きなお金が動くこともあるが、必ずしも動かなくてもいい。
「この仕事をしたらなんぼですか?」という働き方をしていたら、やはりそれだけのスケールにしかならない。お医者さんが目の前に急病人がいれば当然助けるように、私はお産について知りたい人がいれば書く。それだけのことで、そのうち世間から役に立つ存在だと思われるようになれば、それが自分の職業を持つということだと思う。