子供を育てる親達の英語教育への関心は高い。幼児の習い事ランキングなどを目にすると、常に上位にランクされている。中央教育審議会が小学校5年生からの英語必修化を提言し議論されているが、この英語教育熱は、小学校での必修化をにらんでのことばかりではないだろう。大方の親は、自分が英語で苦労した経験やバイリンガルへの憧れから、英語の早期教育神話とでもいうべきものにすがるのではないか。
しかし、「英語は早くから始めさえすれば、苦労せず身に付けることができる」と考えるのは安易であると言わざるを得ない。確かに語学学習には「臨界期」といって、その時期を過ぎると学習することが困難になるという「臨界期仮説」がある。言語習得の臨界期は思春期までであり、発音に関しては6歳までを臨界期とする説もある。だがこれはあくまでも必要条件。この時期までに始めれば習得できるということではない。
しかも、臨界期を過ぎても習得の可能性がガクンと一気に下がってしまうわけではなく、徐々に下がっていくものだともいわれており、臨界期を過ぎても学習法を工夫すれば、能力をあげることが可能であるとも考えることができる。
ただいずれにしても発音については、子供のうちに英語に触れさせておくほうが有利であるといえるであろう。


これを踏まえたうえで、子供に英語を習わせるかどうかは、親の英語に対する考え方や価値観による。私個人の考えとしては、やはり子供には英語を習わせたい。いずれ必要なものなのであれば、早くから始めたほうが良いし、日本だけではなく他の国々の人ともコミュニケーションがとれる下地をつくってあげたいからだ。
さて、英語の早期教育といっても、方法は実に様々である。英会話スクールひとつをとっても会話中心のところから、英語でダンス、英語でアート、少し学齢が高くなれば英語で算数など英語を使いながら覚えていくものまで、多種多様である。万人に向く「これ!」というものがあるわけもなく、自分で選ぶことになるわけであるが、子供の習い事は親の協力が不可欠なので、子供はもちろん親自身も楽しめるものがいいと思う。
また、英語教材にCD、絵本、映画や子供向け英語番組など、家庭でできることもたくさんある。子供と英語の童謡を楽しむのも一案だ。英語はリズム感のある言語で音楽に合わせやすい。英語の歌をうたうことで言葉のリズムを感じることができる。また、歌は遊びとして楽しめる。ポイントは、CDをただ掛け流すのではなく一緒に歌うこと、そして、英語らしいおもしろい音の部分を楽しく繰り返し聞かせること。
例えば“The Wheels on the Bus”という曲がある。“The wheels on the bus go round and round,”この“round and round”を繰り返し歌ってきかせる。車輪がグルグル回るようなジェスチャーを示したりしながら、二つのroundが強拍(強く発音する部分)で間のandは弱いこと、そして英語のRの音を聞かせることができる。もちろん親が正しくRの音を発音することが前提だ。英語の音のおもしろさに気付かせることができれば、英語に興味を持つきっかけになるかもしれない。
これはほんの導入のことで、道のりは長い。親が思い描くようにはなかなかいかないのが現実であろう。でも親は誰しも、子供にはたくさんの楽しい経験をさせてあげたいと思っているはず。だから英語のための時間も、子供にとって楽しければそれだけでも価値があるというのは甘い考えであろうか。たとえば英語の童謡がいくつも歌えるようになれば、それも子供にとってのひとつの財産になるのではないかと思うのだ。